「絵とき ゾウの時間とネズミの時間」
本川達雄 文・あべ弘士 絵
福音館書店 1300円(税別)
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著者・本川達雄氏は、長年、沖縄に移住してナマコの研究をされていた純・生物学者だ。
「純」と加えたのにはワケがある。
そして、この絵本により、私も長年抱いていた疑問が解けた。
スーッとした、1冊。
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それは、
人間より長寿なオウムやカメ、人間の私、私より短命なネズミやセミ
にとって、「一生」は同じ一生なのだろうか、という疑問。
ひいては、自分をつくっている細胞は、たとえば肌なら
若くてすこやかな場合、28日周期で日々入れ替わっている。
おなかの中で、免疫のバリアを張って有害物質の取り込みを防いでいる
腸内細菌は、どんどん入れ替わってウンチとして排出されている。
・・・・なのに、私は「自分」という曖昧な意識で
細胞入れ替わりがon going、腸内細菌がどんどん交代しながら
成り立っている自分が、「一定」だと思い込んでいるのだ。
・・・・これって、どーなのよ???
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本川先生によると、
「ゾウもネズミも、もちろん人も、
それぞれが持つ固有の時間のスパンを生きながら、
それぞれのペースで心臓が15億回打つまで生きる」
長寿の動物はゆっくりなりに、体重に比べ少ない量のえさを長年、食べる
短命な動物はスピーディなりに、体重に比べたくさんの量をこめまに食べる。
心臓がドキンと打つ回数は、人だと1分間に60~70回なのに
長寿のゾウは30回、短命なハツカネズミは600回近いのだそう。
・・・・ということは?
ゾウはゾウ時間の中で、人は人時間の中で、ハツカネズミはネズミ時間の中で
それぞれ心臓が15億回打つまで同じように生きている!
・・・・みんな、形も環境も違うけど、同じように生を受け、
同じように生を維持して、同じように生を全うするんだ。
きっと、遠い遠いはるかかなたの瞬間にビッグバンから宇宙が生まれた
その突き進むエネルギーが「生」という時間をつくったのだ。
~~~◎※?*▲;<??・・・・・・・・・(混沌)
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本川先生は、純・生物学者を志した方だ。
今の科学は、消費社会にプラスになる研究が有用とされている。
自分はそれとは距離を置いた純然たる学者になりたい。
そこで、できるだけ役に立たない研究を、と
ブサイクでかわいげのないナマコの研究の道を選んだのだそう。
でも、税金でお給料をいただいて自己満足していては申し訳ない。
そこで、絵本やエッセイ、世界初のナマコガイドブックの出版、
講演(それも自作の歌の発表付き)の
自称・シンガーソング・バイオロジストとして、
世に貢献していらっしゃる。
現在は東京工業大学の大学院で生命理工学の教授をされているようですが
若い頃にこんな先生に出会ったら、人生、変わっていたかも。
*この絵本は、絵がまた秀逸。
スケールの大きな「時間」が縦横無尽に描かれていて、
出てくる動物が存在感あり。
今年5月に、梅田大丸の個展&講演会に行けず、無念!!
と今でもくやしい あべ弘士さん。
あの旭山動物園の飼育係からイラストレーターになった方で
動物への細やかな目が並はずれた作品だと思う